東京高等裁判所 平成12年(ネ)3618号 判決 2000年12月25日
控訴人
ユーザー車検代行会全国総本部代表ことA
被控訴人
B
被控訴人
有限会社たけや
右代表者代表取締役
C
右両名訴訟代理人弁護士
浅野正富
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して金九五万円及びこれに対する平成一二年五月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
主文と同旨
第二事案の概要
争いのない事実、当事者双方の主張及び争点は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決三頁一〇行目から五頁四行目までを次のとおり改める。
1 控訴人は、新しい車検方式として、「自動車のユーザー自らが車検場に出向いて車検を受ける」という方法を考え出し、これを「ユーザー車検」と名付け、昭和五八年四月一四日、「ユーザー車検代行会」の営業表示を使用して、ユーザー車検を代行する営業を開始した。
2 控訴人の右営業は、各種マスコミで取り上げられ、全国から名称使用等の希望が寄せられたことから、控訴人は、右営業をフランチャイズ方式で展開するようになり、昭和六〇年ころには、全国で約四〇店の支部を数えるに至った。
3 このようにして、昭和六〇年初めころから、「ユーザー車検代行会」の営業表示は、格安の車検業務を行う企業グループの名称として、自動車車検の需要者等にも全国的に広く認識されるものとなっていた。今日、「ユーザー車検代行会」のフランチャイズ組織に加盟する店舗は、全国で約一〇〇店に及び、取扱台数は年間一〇万台に近く、年間一億円近い宣伝費を支出している。
4 以上によれば、「ユーザー車検」方式は控訴人が創案した方法であり、「ユーザー車検」の語は控訴人が造語したものであり、控訴人がこの方式を事業化したものであって、控訴人の行うユーザー車検の営業は、マスコミの注目を得、控訴人が宣伝を重ね、さらに、フランチャイズチェーンとして全国展開したものである。これにより、「ユーザー車検代行会」の営業表示は、約一五年前から、不正競争防止法二条一項一号にいう「需要者の間に広く認識されている商品等表示」に当たるということができる。「ユーザー」及び「車検」の語がいずれも普通名詞であるからといって、これらを組み合わせた「ユーザー車検」の語が普通名詞であるとはいえず、また、「ユーザー車検代行会」の語は、末尾に「会」が付され特定の団体の名称であることが示されているから、普通名詞ではない。
二 同五頁九行目から一〇行目の「五条一項」を「四条」に改め、一一行目の「収益」の次に「として九五万円」を付加する。
三 同七頁四行目の「『ユーザー車検』ないし『ユーザー車検代行』」を「『ユーザー車検代行会』」に改める。
第三当裁判所の判断
一 控訴人営業表示の周知性について
1 控訴人は、「ユーザー車検代行会」が控訴人の営業表示として需要者の間に広く認識されていると主張し、その根拠として、控訴人が昭和五八年以来、自動車のユーザー自らが車検場に出向いて車検を受けることを「ユーザー車検」と名付け、ユーザーに代わってこれを代行することを業務とする事業者のフランチャイズ組織である「ユーザー車検代行会」を全国展開し、その加盟する事業者の店舗が全国で約一〇〇店、その取扱台数が年間一〇万台に達し、組織全体で年間一億円近い宣伝費を支出していると主張する。
2 しかしながら、「ユーザー車検」の語は、「自動車のユーザー自らが車検場に出向いて車検を受けること」を意味するものとして控訴人が造語したものであることは、前記のとおり控訴人の主張するところであり、そうである以上、「ユーザー車検」の語は、右のような意味を有する普通名詞として造語されたものであって、特定の営業主体による営業であることを表示するものではないといわざるを得ない。現に、「ユーザー車検」の語は、辞典等の書籍(乙一ないし四)において普通名詞として掲載されている。控訴人は、「ユーザー」及び「車検」の語がいずれも普通名詞であるからといって、これらを組み合わせた「ユーザー車検」の語が普通名詞であるとはいえないと主張し、確かに、普通名詞を組み合わせて成る語が常に普通名詞であるとはいえないが、このことは、「ユーザー車検」の語が普通名詞であるということに何ら反するものではなく、右認定を左右するものではない。
3 また、「ユーザー車検代行会」の語は、末尾に「会」の語が付され、特定の団体の名称であることが示されているから、これが普通名詞でないことは控訴人の主張するとおりである。しかしながら、「ユーザー車検代行会」のフランチャイズ組織全体の店舗数については、九三店舗について記載された契約状況一覧(甲四)が提出されているものの、店舗数がこれを上回ることについては何ら立証がない。仮に、右店舗数を九三店舗とし、取扱台数及び宣伝費を控訴人主張のとおりと仮定しても、我が国全土において保有されている自動車の台数、車検業務の市場規模等に照らして、その規模はさしたるものではなく、また、車検においてユーザー車検が行われている割合及びその件数が証拠上明らかでない以上、ユーザー車検業務の市場において「ユーザー車検代行会」のフランチャイズ組織がどの程度の市場占有率を有するのかは全く不明であるというほかはない。加えて、「ユーザー車検代行会」の語のうち「ユーザー車検」の部分は、前記認定のとおり普通名詞であり、「代行会」の部分も、業務を代行する団体であることを意味するにすぎないのであって、「ユーザー車検代行会」の語が普通名詞ではないとはいえ、特定の営業主体を示す出所表示機能は、極めて低いものというべきである。
4 これらの事情を総合すると、「ユーザー車検代行会」の表示が控訴人の営業表示として需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないから、控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
二 結論
以上のとおり、控訴人の被控訴人らに対する請求を棄却した原判決の結論は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法六七条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 石原直樹 裁判官 長沢幸男)